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ろうごくのはなよめ
牢獄の花嫁
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《牢獄の花嫁(ろうごくのはなよめ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 頁
めっそうもない飯盛女たちじゃ」
と、自分の子でも庇うように、
「さ、郁次郎様、貧しい家でございますが、どうぞお寄り下さいまし」
「乳母や、あまり人の前で、郁次郎郁次郎と、わしの本名を言ってくれるな」
「おや、なぜでござりまする?」
「すこし仔細があって、身を隠している体だから」
「長崎へご勉強においでになったというお話ですが」
「その長崎の修業中に……」
と、何か言いかけたが、急にそわそわと、
「乳母や、とにかく家へはいって」
と、急ぎ足に歩き出した。
乳母のお杉は、昔、自分の手で育てた郁次郎が、何かふかい秘密をもって、身を隠す地を頼って来たと聞いて、深い理由もたださずに、ただ盲愛にちかい気持で、
「よろしゅうございます。お杉が、きっとお匿いいたしまする」
と、ひきうけた。
だが、お杉の亭主は、宿場人足のあぶれ者だった。呑ンベの繁といって、戸塚でも鼻抓みの男である。
で、昨日。
お杉は一挺の駕を雇って来た。
「宅では、不安心でございますから、私の縁者の者が、ここに神官をしておりますゆえ、これを持って、ひとまずそこへ」
と、文字は拙いが、真心のこもった一通の手紙を添えて、行く先も、繁には内緒にして、先の隠れ家へ立たせた。