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くるいだこ
狂い凧
梅崎 春生
線上閱讀梅崎 春生《狂い凧(くるいだこ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 111,430 字 · 226 頁
一時ほどは旦那風を吹かせなくなったが、幸太郎は彼の家にとって、やはり本家の旦那であった。双生児が生れた時も、喜んだのはむしろ幸太郎で、彼が生れた土地の城の名を栄城と言い、それを割って二人に命名したことでも判る。つまり彼は二人の名付親に当るのだ。しかし、その時、
「栄介城介の二人の中、勉強の出来る方の子の学資を出してやろう。そのかわりに自分に子供が出来なかったら、その子をわしの養子に呉れ」
と後年、福次郎に申し出るほどの遠慮深謀はなかっただろう。幸太郎もまだ若かったし、それを予想出来ない筈だから。
栄介は今もぼんやりと憶い出す。親しい兄弟なので、訪問するには庭先に廻ればいいのに、かならず玄関の扉をがらがらあけて入ってくる。彼は案内を乞うことをしない。そのままずかずかと上って、玄関に続く座敷にぴたりと坐ってしまう。
「福、いるか?」
幸太郎は弟のことを、福、あるいはお前、と呼んだ。幸太郎の声は大きく、がらがらしているので、家中にひびいた。
話の眼目は、大体こうである。退学届を出した以上、ここの有力者である自分(幸太郎は自らのことをそう言った)が、校長に談じ込んでも、もうムリだろう。