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がらすどのうち
硝子戸の中
線上閱讀夏目 漱石《硝子戸の中(がらすどのうち)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 52,702 字 · 105 頁
彼はどこから聴いてくるのか、調べてくるのか、よくむずかしい漢籍の名前などを挙げて、私を驚ろかす事が多かった。
彼はある日私の部屋同様になっている玄関に上り込んで、懐から二冊つづきの書物を出して見せた。それは確に写本であった。しかも漢文で綴ってあったように思う。私は喜いちゃんから、その書物を受け取って、無意味にそこここを引っ繰返して見ていた。実は何が何だか私にはさっぱり解らなかったのである。しかし喜いちゃんは、それを知ってるかなどと露骨な事をいう性質ではなかった。
「これは太田南畝の自筆なんだがね。僕の友達がそれを売りたいというので君に見せに来たんだが、買ってやらないか」
私は太田南畝という人を知らなかった。
「太田南畝っていったい何だい」
「蜀山人の事さ。有名な蜀山人さ」
無学な私は蜀山人という名前さえまだ知らなかった。しかし喜いちゃんにそう云われて見ると、何だか貴重の書物らしい気がした。
「いくらなら売るのかい」と訊いて見た。
「五十銭に売りたいと云うんだがね。どうだろう」
私は考えた。そうして何しろ価切って見るのが上策だと思いついた。
「二十五銭なら買っても好い」