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ちくはくき
竹柏記
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《竹柏記(ちくはくき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 45,798 字 · 91 頁
一の三
彼はどちらかというと痩形で、濃い眉と、やさしい、温和な眼をもっていた。動作も言葉もものやわらかであるし、荒い声をたてるとか、人に不愉快な顔をみせる、などということは決してなかった。
「――その相手は、岡村八束というのです」
彼は眼を伏せたまま話しだした。
背戸のあたりで、なにかの動物の、鼻にかかったような、なき声がした。この丘陵のうしろは、隣国の領分まで、殆んど山と森つづきで、猪や鹿などが多く棲んでいた。そのなき声は、おそらく若い鹿であろう。かなしげに訴えるような、心に残るような声であった。
「そう、そうだったの」
叔母は頷いた。孝之助の話はわかったけれども、そのままでは納得ができないようであった。
「正直に仰しゃって呉れて有難う、でもねえ孝さん、あなたがそれほど、杉乃さんを愛していらっしゃることはわかるけれど、そういうふうにまでして結婚するということは、少し不自然じゃないかしら」
「――不自然、でしょうか」
「そう云っては、言葉が強すぎるかもしれないけれど」
千寿はそっと銚子を持った。
一の三
「この叔母さまはべつとしても、女というものは初めて愛した人は忘れられないものよ。