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おちぼひろい

落穂拾い・犬の生活

小山 清

線上閱讀小山 清《落穂拾い・犬の生活(おちぼひろい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 239,741 字 · 486 頁

青空文庫

お糸さんの話をしよう。お糸さんが私の家に来たのは桜どきで、吉原はちょうど夜桜の頃であった。

吉原の桜は八重咲きが多く、上野や向島よりは遅れて咲いた。花の開く頃になると、馬力や荷車に附けられて、桜林から仲の町に移された。大門口から水道尻まで、桜のあるところは青竹の欄干で囲われ、その囲みの中に朝顔灯籠が点し連ねられた。葉桜になってしばらくすると、また根こぎにされて、桜林へ運ばれるのである。

お糸さんが家へ来る前の日、五十間の平床の親爺さんが祖父のひげを剃りにきた。この親爺さんはいつも抽出のついた黒塗りの箱をさげてきた。「御隠居さんのひげはあっしの剃刀でないと刃が立ちません。」と云い云いしていたが、お世辞ではなくて自分の腕を自慢していたのかも知れない。この人の亡くなった父親が平さんと云って、吉原の名物男の一人であったが、倅の代になってからも得意筋からは「平床」の名で贔屓にされていたようである。

平床が仕事を終わって帰るときに祖父は、

「御苦労だが、帰りに並仙に寄って明日来るようにそう云ってくれ。」と託けをした。並仙というのは角町にあった俥屋である。

「どこかへお出かけで。