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おちぼひろい
落穂拾い・犬の生活
小山 清
線上閱讀小山 清《落穂拾い・犬の生活(おちぼひろい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 239,741 字 · 486 頁
」と云った。もう用はないのである。私はもじもじしていたが、云った。
「先生は千年樫の下にいた時には楽しかったですか?」
居士は眼もとにうすく笑を見せて頷いただけだった。なんだかばつが悪かった。私はまた云った。
「自分の若さというものが纏って胸に浮んでくるような期が来るでしょうか?」
居士は私の顔から眼をそらしたが、誰にも心のらくになるような期が一度は来るようだ、というような意味のことを云った。それから居士はふと思いついたように立ち上って、そこに陳列してある本の中から一冊抜き出して、また机に向い、ペンを執って一寸躊躇してから見返に「質直意柔軟」と書いて、その「千年樫の下にて」を私にくれた。私が本をあけて挿入してある千年樫の写真や居士の草庵の写真に飽かず見入っていると、居士は立ち上った。渡り廊下を耕書堂の方へゆく居士の後姿に私は呼びかけた。
「先生。」
居士は立ち止って横顔を向けた。
「青年はどういう本を読んだらいいでしょうか?」
「聖書。論語。」
居士はそう云捨てて廊下を歩いていった。
私は介山居士が千年樫の下に草庵を結んでいて、傅く一人の弟子が私であったなら、どんなにいいだろうと思った。