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とうじゅうろうのこい

藤十郎の恋・恩讐の彼方に

菊池 寛

線上閱讀菊池 寛《藤十郎の恋・恩讐の彼方に(とうじゅうろうのこい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 37,146 字 · 74 頁

青空文庫

その中に、私自身貴女の眸の力が、私の心の奥深く日に増し、貫いて来るのを感じました。私は、役者として長い間、色々な女性にも接して来ましたが、貴女ほどの美しさを持った方に一度も逢ったことがないように、思い始めたのです。何時の間にか、私は貴女をお慕い申すようになっていたのです。私は貴女のお姿が見えない時は、見物席がどんなに一杯であろうとも、芝居をするのに少しも力が入らないのです。又それと反対に、どんなに入りが少い時でも、貴女のお姿が平土間の一隅に見えますと、私は生れ代ったような力と精神とで、私の芸を演じました。そして、私の動作につれて貴女のお眼の色が、輝いて来るのを見て、どんなに幸福を感じたでしょう。私が舞台の上で歎けば、貴女もお歎きになり、私が舞台で笑えば、貴女もお笑いになるのを見て、私はどんなに嬉しく思ったでしょう。私は、貴女が私を愛していて下さることと信じて疑いませんでした。そして、貴女が私に恋を打ち開けられるのを、じっと辛抱して待っていました。が、私の期待は外ずれて、貴女は仲々その堅い蕾を、お開きにならないように、私には思われたのでした。私は、到頭自分自身の方から、切ない恋を打ちあける手段を取りました。