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ずいひつ しほんたいへいき

随筆 私本太平記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《随筆 私本太平記(ずいひつ しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 56,947 字 · 114 頁

青空文庫

盲目の彼一人には、南北朝の別もなくまた暗黒期もなかったのだ。

その晩年には、京都高倉綾小路に“清聚庵”という盲人組織の職屋敷をおいて、それまでは全く社会の癈疾者――厄介者としかみられていなかった盲人に“平家琵琶”という一職業を与え、検校、別当、勾当、座頭の四階位から十六階位までの瞽官制度のゆるしを得、瞽官の授与やその他で上がる金で、全盲人のうえに希望と保護をもたらした人でもある。

大きくいえば、覚一は琵琶の名手で、なお日本の盲人の父だった。覚一の出現で盲人の社会的位置は全く一変した。宮中から公卿、武将、庶民の巷にまで、ひと頃は、琵琶法師の見られぬところはなかった。それまでは、ひどい話だが「盲が一人死ねば、長者が二人できる」とさえ当時の諺にいわれた程なものだった。――けれど、そんな人も、逆臣尊氏の縁者という悪名に累されてか否か、歴史の上ではほとんど影を消されており、もちろん今日の盲人諸君にしても、自分たちの先人に覚一があったことなどおそらく知るまい。

先ごろ河内紀行から帰った直後、三重県上野市の久保文雄氏から天来の一信をいただいた。氏の郷土史報告によると、楠木正成の縁類にも、盲人ではないが、覚一のごとく、芸術に生きて、あの大暗黒期の下から、長い後世にわたる芸林の源泉をせせらぎ出していた人があったという。