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ずいひつ しほんたいへいき

随筆 私本太平記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《随筆 私本太平記(ずいひつ しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 56,947 字 · 114 頁

青空文庫

社の支局を通じ、また島の郷土史家や篤志家から送られた隠岐文献の類は机に山積されたほどだった。古い紀行や現地講演の類まで余さず漁ッてみた。中では島根県史六巻の第六章はさすが卓抜しているが、それにしてさえ骨子は鰐淵寺所蔵の宸筆文書一通のほかにさしての取りえもない。

現今の観光ブームで問題になっている例の、

後醍醐天皇のいた所は、島後がほんとか島前が真か。

という配所の家元争いみたいな論争のことになると、さて、やっかいだ。どっちがわへでも、単なる論証や理窟の組立てならそう難しいことでない。それを文部省が島前の史蹟を取消し、島後を一方的な指定地にしたなどは、ちと早計ではなかったか。もしこれが司法判決の形式でもあったなら松川事件みたいに、なかなかおさまることではなかったろう。

火野葦平氏なども昨年隠岐へ一遊のさいは、だいぶその「国分寺か、黒木ノ御所か」を島では聞かされたことらしい。私もたびたびすすめをうけたが、古くは吉田東伍博士以下、専門史家の多くに踏査はずいぶんくりかえされたものだった。逃げたわけではないが、つい私は夏を軽井沢にすごしてしまった。しかし山国の嵐気のなかで隠岐の六百二十五年前の人と波濤を想像にのぼすなどは悪いコンディションであったとは思わない。