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せいあどうきだん

青蛙堂鬼談

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《青蛙堂鬼談(せいあどうきだん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 121,438 字 · 238 頁

青空文庫

そこで、第二の男は語る。

享保の初年である。利根川のむこう河岸、江戸の方角からいえば奥州寄りの岸のほとりに一人の座頭が立っていた。坂東太郎という利根の大河もここは船渡しで、江戸時代には房川の渡しと呼んでいた。奥州街道と日光街道との要所であるから、栗橋の宿には関所がある。その関所をすぎて川を渡ると、むこう河岸は古河の町で、土井家八万石の城下として昔から繁昌している。かの座頭はその古河の方面の岸に近くたたずんでいるのであった。

座頭が利根川の岸に立っている。――ただそれだけのことならば格別の問題にもならないかも知れない。かれは年のころ三十前後で、顔色の蒼黒い、口のすこしゆがんだ、痩形の中背の男で、夏でも冬でも浅黄の頭巾をかぶって、草鞋ばきの旅すがたをしているのであるが、朝から晩までこの渡し場に立ち暮らしているばかりで、かつて渡ろうとはしない。

相手が盲人であるから、船頭は渡し賃を取らず渡してやろうと言っても、彼は寂しく笑いながら黙って頭をふるのである。それも一日や二日のことではなく、一年、二年、三年、雨風をいとわず、暑寒を嫌わず、彼はいかなる日でもかならずこの渡し場にその痩せた姿をあらわすのであった。