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ひだのかいだん
飛騨の怪談 新編 綺堂怪奇名作選
岡本 綺堂
線上閱讀岡本 綺堂《飛騨の怪談 新編 綺堂怪奇名作選(ひだのかいだん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 130,271 字 · 263 頁
この深林を背景に、重太郎は無言の俳優として舞台に立っていた。
彼は恋しいお葉と泣いて別れた。更に父と知らずして父を傷けた。お葉が形見の山椿の枝を抱えて、一旦は其場から姿を隠したが、流石に遠くは立去らなかった。彼は木間や岩蔭に潜んで、絶えず其後の模様を窺っていると、安行も死んだ、お杉も死んだ、の一人も死んだ。其屍体は何れも里へ運び去られたのである。
安行や※(「けものへん+操のつくり」、第4水準2-80-51)の死に就ては、彼は何にも考えなかったが、お杉の死は彼の胸を深く抉った。二十年来この窟に隠れ棲んで、殆ど人間との交際を断っていた此の母子二人は、さながら車の両輪の如き関係であった。今や其母を亡って、彼は殆ど片輪になって了った。曩の夜、母から十日の内には死ぬと云い聞かされた時には、彼は心窃かにお葉というものを頼みにしていた。が、それも希望の綱が切れた。彼は枝を離れた木葉のように、風のまにまに飛んで行くより他は無かった。
ここばかりが自分の天地でないことは、重太郎も流石に知らぬでは無かった。母に別れ、お葉に離れて、必ずしも此の山奥に棲んでいる必要は無いと思った。