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ひだのかいだん
飛騨の怪談 新編 綺堂怪奇名作選
岡本 綺堂
線上閱讀岡本 綺堂《飛騨の怪談 新編 綺堂怪奇名作選(ひだのかいだん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 130,271 字 · 263 頁
(二十八)
この辺には大樹が多かった。大樹の聳ゆる下に落葉焚く煙が白くって、彼のお杉婆は窟を背後に、余念もなく稗の粥を煮ていたが、彼女の耳は非常に敏かった。忽ち人の跫音に心附いたと見えて、灰色のおどろ髪を振乱しつつ此方を屹と顧った。市郎はつかつかと其の眼前に現れた。
お杉は騒ぐ気色もなく、徐に起ち上って軽く会釈した。
「昨日は何うも飛んだ御邪魔を致しました。」
「いや、僕の方でも大変失礼した。」と、市郎も尋常の挨拶をして、「時に今日来たのは他でもないが、家の親父が昨夕から行方知れずになったので……。」
「まあ。」と、お杉は驚いた顔をした。
(二十八)
市郎は少しく躊躇したが、更に詞を次いだ。
「そこで、心当りを方々探しているんだが、何うも判らないので困っている。」
「それは困りましたねえ。」と、お杉も心配そうに眉を寄せた。
「村の者の話に拠ると、親父は山の方へ登ったとも云うんだ。若し然うならば、万一此地の方へでも迷い込んで来やアしないかと思って……。」
「いいえ、お見掛申しませんね。」
お杉は昨日に引替えて、極めて叮嚀な口吻であった。が、市郎は中々油断しなかった。
「親父は来なかったかね」