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ひだのかいだん

飛騨の怪談 新編 綺堂怪奇名作選

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《飛騨の怪談 新編 綺堂怪奇名作選(ひだのかいだん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 130,271 字 · 263 頁

青空文庫

雨風を恐れぬ重太郎も、此雪には流石に面を向けられぬので、成べく人家の軒下を伝って歩くと、暗い町の中で唯一軒、燈火の外へ洩れる家を見た。門には枯柳が骸骨のように立っていた。

「ああ、柳屋か。」

重太郎の血は俄に沸いた。眼に見えぬ糸に曳かるる様に、彼はふらふらと其の門口に窺い寄ると、奥には春めいた空気が漲って、男や女の笑い声が聞えた。やがて三味線の音が冴えて聞えた。

美濃の柳と、近江の柳。

風のまにまに縺れて解けて、

国は違えど、恋はする。

唄の声は正しくお葉であった。重太郎は枯柳に犇と取付いて、酔えるように耳を澄していた。雪はいよいよ降頻って、重太郎も柳も真白になった。

糸の音が止むと、又もや話声や笑い声が聞えた。其中にお葉の声も聞えるかと、重太郎は猶も耳を傾けていた。

客は矢はり鉱山に関係の人らしい、酔を帯びた調子は高かった。

「何うだい、到頭降って来たらしいぜ。過日から催していたんだから、滅多に止むまいよ。困ったもんだ。」

「可いじゃありませんか。何うせ寒い中は休みでしょうから、当分はここの家に冬籠りを為さいよ。」と、若い女の声。これはお葉ではなかった。

「だが、雪が降って食物が無くなると、が山から里へ出て来ると云うじゃアないか。