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ひだのかいだん

飛騨の怪談 新編 綺堂怪奇名作選

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《飛騨の怪談 新編 綺堂怪奇名作選(ひだのかいだん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 130,271 字 · 263 頁

青空文庫

との事。それから晩餐の御馳走になって、奥の間の最上等の座敷へ案内されて、ここを私の居間と定められたが、こんな立派な広いお座敷に寝るのは実に今夜が嚆矢だ、併し後で考えるとこのお座敷が一向に有難くない、思い出しても慄然とするお座敷であったのだ。

神ならぬ身の私は、ただ何が無しに愉快で満足で、十分に手足を伸して楽々と眠に就いたのが夜の十一時頃、それから一寝入して眼が醒めると、何だか頭が重いような、呼吸苦しいような、何とも云われぬ切ない心持がするので、若や瓦斯の螺旋でも弛んでいるのではあるまいかと、取あえず寝台を降りて座敷の瓦斯を検査したが、螺旋には更に別条なく、また他から瓦斯の洩れるような様子もない、けれども、何分にも呼吸が詰まるような心持で、終局には眼が眩んで来たから、兎にかく一方の硝子窓をあけて、それから半身を外に出して、先ずほっと一息ついた。今夜は月のない晩であるが、大空には無数の星のかげ冴えて、その星明で庭の景色もおぼろに見える、昼は左のみとも思わなかったが、今見ると実に驚くばかりの広い庭で、植込の立木は宛で小さな森のように黒く繁茂っているが、今夜はそよとの風も吹かず、庭にあるほどの草も木も静に眠って、葉末を飜るる夜露の音も聞えるばかり、いかにも閑静な夜であった。