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なるとひちょう

鳴門秘帖(三)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《鳴門秘帖(三)(なるとひちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 261,216 字 · 521 頁

青空文庫

萎んだ芍薬を駕の屋根へのせて、こくり、こくり、と居眠りをしながら、朝の町を担われてきた源内は、野中の観音で、狐にでも化かされてきたかと、往来の者にふりかえられた。

起こされて、びっくりしてみると、いつか、九条村の家へ着いている。

「ホイ、ご苦労だった」

と、渋い目をこすりながら、柴折を開けて中へはいると、そこには、きのう途中で帰した川長のお米が、ひとりで、ぽつねんと待っていた。

待ちくたびれていたらしいが、源内の姿を見ると、お米は、愛嬌のいい顔をして、

「先生、お留守でしたが、どうせ朝のことですから、じきにお帰りであろうと思って」

「はあ」

と、源内は、だるそうに、座敷へ上がって、

「――待っておいでたのか」

「ええ、きのうもムダ足をいたしましたから」

「そうそう、昨日はとんだ失礼を」

「こんな早くから、どちらへおいででございました。先生も、なかなか隅へおけませんのね」

「朝帰りではございません、妙に気を廻されては困る」

「でも、ずいぶん眠そうな顔じゃございませんか。ホ、ホ、ホ、ホ」

おや、この娘は、いつのまにかたいそう男に馴れてきている。すっかり、羞恥というものが取れてしまって、あべこべに男のはにかみを眺めようとしている――と源内はちょっと驚いた。