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なるとひちょう

鳴門秘帖(三)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《鳴門秘帖(三)(なるとひちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 261,216 字 · 521 頁

青空文庫

紫紺地の頭巾に面をくるんだ弦之丞と、青い富士形の編笠に紅紐をつけて、眉深くかぶったお綱とは、せわしない往来をよけて、農人橋の手欄から川の中を見下ろしていた。

そうした雑踏の中で見るだけ、よけいに二人の姿は、誰の目にもしがない旅芸人とよりしか見えない。よく世間にある侍くずれの能役者と、それしゃの果ての女とが、生活の旅に疲れたという姿だ。お綱が帯に秘し差にした柳しぼりの一腰さえ、尺八の袋か、笛や舞扇でも入れているかと、人目もひかぬほど調和していた。

「もし、桜間さん」

人混みの中をぬけてきて、なれなれしく呼びかけた者がある。

見れば、手代の新吉。

河岸どおりから姿を見かけて、約束どおり店からここへ駈けてきたのだ。

「お、新吉さんでございます」

言葉を合せると、往来の者へも聞こえよがしに。

「この間、旅先から手紙を寄越しなすったそうだが、なぜもっと早く来ないのかって、お家様も噂をしていたのさ。船が出るのは五ツ刻だから、まだちょっと間がある。とにかく、寮のほうへ廻ってお目にかかって行きなさい。なに、せわしい最中だが、私がちょっと案内をして上げましょう」

と無造作に、さッさと先へ立って、わざと店の前を通り抜けて行った。