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なるとひちょう

鳴門秘帖(三)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《鳴門秘帖(三)(なるとひちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 261,216 字 · 521 頁

青空文庫

「まあ、お米さんとしたことが」

お吉が、あきれて、何かいおうとするその口を抑えて、

「いいよ、ほうっといておくれ。私は私で、弦之丞様をたずね当てるんだから」

「そのことじゃありませんが、あなたはまあ、体のお弱いくせに、なんだって、飲めもしないお酒をそんなに上がったのですえ?」

「いいじゃないか、私の体だもの」

「せっかく、ご丈夫になりかけているのに」

「よけいなことをいっておくれでない。私が、頼むことも教えてくれないくせにして」

「だって、知らないことを」

「知っていたら、後で怨むよ。いいかえ、わたしは明日から、きっと、その人を探しにかかるつもりなのだから、ね」

酒のせいではあろうが、お吉を睨むように見流して、スルスルと、二階へ裾を匍わせて行った。

そぼそぼとすすり泣くような小雨の音が、晩春の夜をひとしお心細く降ってきた。翌朝も、細かい雨が煙っていて、竹の樋の裂け目から落ちる雫に、勝手の板の間がびしょ濡れになっていた。

ゆうべ、寝しなに、ここを固く閉めて床についた筈なのが、開け放しになっているので、お吉は、起きるとすぐに、あたりのさまを疑った。みると、この間、歯を洗って隅においてあった、高足駄が見えないし、壁に吊るしてある雨傘のうちで、一番新しい渋蛇の目がそこに見えない。