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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

線上閱讀小栗 虫太郎《黒死館殺人事件(こくしかんさつじんじけん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 頁

青空文庫

「まったく、それと同様なんです。得体の判らない接近というものは、明らさまな脅迫よりも、いっそう恐怖的なものですからな、しかし、儂どもに寝室の扉に閂を下させたり、またそれを、要塞のように固めさせるに至った原因というのは、けっして昨今の話ではないのですよ。実は、あの晩の神意審問会と同様の出来事が、以前にも一度繰り返されたことがあったのです」とレヴェズ氏は顔を引き緊め、つい寸秒前に行われた、法水との黙劇を忘れたかのように、語りはじめたものがあった。

「それは、先主が歿られてから間もなくのことで、去年の五月の初めでしたが、その夜は、ハイドンのト短調四重奏曲の練習を、礼拝堂でやることになりました。ところが、曲が進行しているうちに、突然グレーテさんが、何か小声で叫んだかと思うと、右手の弓が床の上に落ち、左手もしだいにダラリと垂れていって、開いてある扉の方を凝然と瞶めているのでした。勿論、儂ども三人は、それを知って演奏を中止いたしました。すると、グレーテさんは、左手に持った提琴を逆さに扉の方へ突き付けて、津多子さん、そこにいたのは誰です?――と叫んだのです。案の定扉の外からは、津多子さんの姿が現われましたけども、あの方はいっこう解せぬような面持で、いいえ誰もいない――と云うのでした。