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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

線上閱讀小栗 虫太郎《黒死館殺人事件(こくしかんさつじんじけん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 頁

青空文庫

そして、早くも警戒の墻壁を築いてしまったのである。しかし、法水は微動もせぬ白々しさで、いよいよ冷静の度を深めていった。

「なるほど、僕の弾き出しが、幾分表情的に過ぎたかもしれません。しかし、こう云うと、あるいは僕の浅学をお嗤いになるでしょうが、事実僕は、未だもって『Discorsi』(十六世紀の前半フィレンツェの外交家マキァヴェリ著「陰謀史」)さえも読んでいないのですよ、ですから、御覧のとおりの開けっ放しで、勿論陥穽も計謀もありっこないのです。いや、いっそこの際、事件の帰趨をお話して、御存じのない部分までお耳に入れましょう。そして、その上で、さらに御同意を得るとしますかな」と肱を膝の上でずらし、相手を見据えたまま法水は上体を傾げた。

「で、それと云うのは、この事件の動機に、三つの潮流があるということなのです」

「なんですと、動機に三つの潮流が……。いや、たしかそれは一つのはずです。法水さん、貴方は津多子を――遺産の配分に洩れた一人をお忘れかな」

「いや、それはともかくとして、まずお聴き願いましょう」と法水は相手を制して、最初ディグスビイを挙げた。そして十二宮秘密記法の解読にはじめてホルバインの『死の舞踏』