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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
線上閱讀小栗 虫太郎《黒死館殺人事件(こくしかんさつじんじけん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 頁
と同時に、彼等の靴を微かに押しやりながら、冷やりと紐穴から這い込んできたものがあった。
「あっ、水だ!」と熊城は、思わず頓狂な叫び声を立てたが、跳び退いた機みに蹌踉いて、片手を左側にある洗手台で支えねばならなかった。しかし、それで万事が瞭然となった。すなわち、扉向うの壁に、三つ並んでいる洗手台の栓を開け放しにして、そこから溢れてくる水に、自然の傾斜を辿らせたのだった。そして、扉の閾に明いている、漆喰の欠目から導いて、その水流を殯室の中へ落ち込ませたに相違ない。そこで、扉を開くことになったが、それには鍵が下りていて、押せど突けども、微動さえしないのである。熊城は恐ろしい勢いで、扉に身体を叩きつけたが、わずかに木の軋る音が響いたのみで、その全身が鞠のように弾き返された。すると、熊城は、身体を立て直して、さながら狂ったような語気で叫んだ。
「斧だ! この扉がロッビアだろうが左甚五郎の手彫りだろうが、僕は是が非でも叩き破るんだ」
そうして斧が取り寄せられて、まず最初の一撃が、把手の上のあたり――羽目を目がけて加えられた。木片が砕け飛んで、旧式の槓杵錠装置が、木捻ごとダラリと下った。