Japanese reading practice

Read classic Japanese books with furigana

ja-reading.com

Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.

だいぼさつとうげ

大菩薩峠5

中里 介山

Read 大菩薩峠5 (だいぼさつとうげ) by 中里 介山 (なかざとかいざん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 262,120 characters · 516 screens

Aozora Bunko

「はい」

微かに結んでいた夢を破られて、向き直ったのは女です。かのいたずらな平沙の浦の磯から拾って来た女であります。

「気分はよろしいか」

甚三郎は提灯を下へ置いて、蝋燭を丁寧に抜き取って、それを手近な燭台の上に立てながら、女の容体をうかがうと、

「ええ、もうよろしうございます、もう大丈夫でございます」

はっきりした返事をして、女は駒井甚三郎の姿を見上げました。

「なるほど、その調子なら、もう心配はない」

甚三郎もまた、女の声と血色とを蝋燭の光で見比べるように、燭台をなお手近く引き出して来ると、

「もし、あなた様は……」

急に昂奮した女の言葉で驚かされました。

「ええ、なに?」

甚三郎が、屹と女の面を見直すと、

「まあ勿体ない、あなた様は、甲府の御勤番支配の殿様ではいらっしゃいませんか」

女は床の上から起き直ろうとしますのを、

「まあまあ静かに。甲府の勤番の支配とやらの、それがどうしたの」

甚三郎は、女の昂奮をなだめようとします。

駒井甚三郎は、ここでこの女から、己れの前身を聞かされようとは思いませんでした。女をなだめながら、もしやとその面を熟視しましたけれども、どうも心当りのある女とは受取ることができません。