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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

Read いやな感じ (いやなかんじ) by 高見 順 (たかみじゅん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 292,113 characters · 587 screens

Aozora Bunko

た。何か小気味のいいリズミカルな音も、深夜は過労のため乱れがちになる。居眠りをして、指を軍手ごと切り落す者もある。工場の天井には雀おどしの鳴子が渡してあって、疲れた女工の眠気をさますために、監督がヒモをひいて鳴らすのだった。

そんなところで波子が働くのを俺は不賛成だったが、波子はいっぺん言い出したらきかない。アビルの弟も、波子が働く気なら、ほかの仕事を世話すると言ったが、波子は女工なみに工場で働くことを望んだ。

罐詰工場の仕事が初めての波子は、サイカツなどは無理だった。サイカツは熟練工でないとできない。タラバガニの大きな脚は、つけ根のところから順々に、「一番」「ラッキョー」「ナンバン」と呼ばれていて、この三つの部分にカニの脚をトントントンと出刃で切るのがサイカツである。熟練した女工は、扉でもたたくような音の早さで手際よく出刃を使っていた。

三つに分れた脚から肉を出すのが波子の仕事だった。この肉出しは女工として初歩の仕事である。ソボロと言って、罐詰用としては下級品の肩肉を出すのも、工場に初めて来た女工のやる仕事だった。それを波子はやった。

「あたし、働くのが好きなのよ」