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いやなかんじ
いやな感じ
高見 順
Read いやな感じ (いやなかんじ) by 高見 順 (たかみじゅん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 292,113 characters · 587 screens
その五 砂むぐり
俺は慷堂の言葉に、権力主義のにおいをかいで、
「先生は共産主義に賛成なんですか」
と言った。砂馬が横から、無茶を言うなと眼で言わせた。
「共産主義は、わしの敵だよ。君らの敵でもあろうが……」
その慷堂が「わしら」と言わないで「わし」と言ったことに、俺はある感じを受けた。
「失礼しました」
理論闘争はやめようと俺は詫びて、瀬良という支那浪人をご存知ではないかと尋ねた。これがこの来訪の目的である。俺はただそれだけ聞いて、その娘が銘酒屋に出ていたなどと言いはしなかったのだが、
「瀬良? 知らんな」
と慷堂は不機嫌そうに言って、
「この青年は、なかなか元気がいい。わしの若いときに、そっくりだ。酒をご馳走しよう」
――俺はそれまであんなに我慢していたキス(酒)を、その日、ガブ飲みしたのである。それは、お銚子を下から運んできた中年の女中が、顔かたちだけでなく、おどおどしたような挙措振舞も、俺の死んだおふくろをまざまざと思い出させたせいもあろうか。
その五 砂むぐり
絶えて行かなかった四の橋の、俺のおやじの家へ俺が足を向けたのは、死んだ俺のおふくろの思い出が俺を招いたのか。往来に面して鋳物工場があり、その奥の川っぷちに家があって、家へ行くには工場の横の、ズク(屑鉄)やコークスの積んである路地を通るのだが、工場を抜けて、行くこともできる