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ごべんのつばき

五瓣の椿

山本 周五郎

Read 五瓣の椿 (ごべんのつばき) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 149,721 characters · 296 screens

Aozora Bunko

おそのというその妻女は、初めの一度で彼のとりこになり、五度ぐらいかよって来ると、「金を出すから自分で開業したらどうだ」と云いだした。彼はそのとき危ない立場にあった。婦人患者の一人が、彼の子をみごもり、良人にみつかって自殺したのである。治療ちゅうにふとあやまちを犯したもので、相手が誰かという証拠はなかったが、良人は彼だと見ぬいているようであった。

「あのときは助かったな」と彼はそのときの危なかった立場を思いだすように、ちょっと身ぶるいをした、「――むさし屋のおそのがあらわれなかったら、徳田家にもいたたまれなくなったろうし、いまごろは人足にでもなっていたかもしれない」

徳田家を出るに当って、おくにを伴れ出したのもよかった。おくには彼の秘密を知っていたが、それが伴れ出す理由ではなかった。家を持つ以上、誰か身のまわりの世話をする者がなければならない、また彼の「治療法」は特別だから、むろん代脈などは使えないし、事情をのみこんでいる者のほうがいい。おくにはこういう条件を備えていたうえに、いざとなれば逐い出すこともたやすい。

――やがて資産を仕上げて、しかるべき家から嫁を貰おう。