Japanese reading practice

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ごべんのつばき

五瓣の椿

山本 周五郎

Read 五瓣の椿 (ごべんのつばき) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 149,721 characters · 296 screens

Aozora Bunko

二

徳次郎は礼を述べてそこから去った。

「おしのさん、どうするんです」彼は歩きながら、茫然と呟いた、「貴女はどこへいったんです、これからどうしようというんですか、いったいなにをするつもりなんですか、おしのさん」

二

「貴女と初めて逢ったのは正月の二十日ですよ、覚えていますかおりうさん」

「覚えていますとも」おりうと呼ばれた女は、男をながし眼に見ながら、舌がだるいとでもいうような、あまえた口ぶりで云った、「――だってあたしのほうで呼んだんですもの、そうでしょ」

「それから五月まで月に一度か二度、夏のうちは音沙汰なしで今月はもう十月、もうすぐ一年になるんですよ」

「また年を一つとるのね、いやだこと」

「おりうさん」

「飲んでちょうだい」と女は云った、「月なんか数えるから年のことを思いだしちゃったじゃないの、いやなお師匠さん」

「ふしぎだ」と男が云った、「その声のまわしようと、左の肩をおとして躯をかしげるしなは、そっくり沢田屋の得意の型だ」

「またあんなことを」

「そらその眼つき、――お嬢さん、貴女はきっと沢田屋とわけがおありですね」男は盃を置いて云った、「いいや、ただのひいきじゃあない、舞台を見ているだけで、あの東蔵の声まわしや身振りが、そんなにぴったり写るものじゃあない、私も岸沢蝶太夫です、そのくらいのことは見当がつきますよ」