Japanese reading practice

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ごべんのつばき

五瓣の椿

山本 周五郎

Read 五瓣の椿 (ごべんのつばき) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 149,721 characters · 296 screens

Aozora Bunko

頭巾からのぞいている顔は蒼白く唇にも血の色はなかった。

火は納戸から見えはじめた。戸の隙間から煙がながれだすと、まもなくその隙間が赤くなり、燈油の焼ける匂いがあたりに広がった。おしのは喘ぎ、勝手口のほうへ歩きだしたが、その足を停めると、顔を空へふり向けた。

「負けそうよお父つぁん、力をかして」とおしのは祈るように云った、「あたしを捉まえていて、お父つぁん」

庇の下から濃密な煙が巻きだし、ついで火の舌が赤く閃いて消えた。戸や庇の下から吹きだす煙は、ようやく家ぜんたいを包み、油臭い匂いを広げ、物の焼けはぜる音がしだいに高くなり、やがて突然、庇を巻きあげるように、橙色の焔がぱっと闇をひき裂いた。

おしのはうしろへさがり、家の中の物音を聞きすました。物の焼ける音と、火の唸りの中に、咳の声が聞えたようであった。しかしそれは一瞬のことで、人の叫びも起こらず、咳も二度とは聞えなかった。――おしのは木戸をぬけて外へ出、火に包まれた家を見まもりながら、なお暫く立っていた。

「もう大丈夫」とおしのは呟いた、「――お父つぁん、待っていて下さいね」

屋根の一部が焼け落ち、ごうと唸りながら、すさまじい火柱が立った。