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どようふじん

土曜夫人

織田 作之助

Read 土曜夫人 (どようふじん) by 織田 作之助 (おださくのすけ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 106,903 characters · 213 screens

Aozora Bunko

七

――とは、一体どうしたことであろう。

その時、一人の男が椅子に掛けたまま遠くから陽子に会釈した。

七

会釈したのは、乗竹侯爵の次男坊の、春隆という三十前後の青年だった。

「ねえ、泊めてくれる……?」

と、京吉が二十三歳の顔に、十代の無邪気な表情を浮べながら、くりかえす言葉をききながら、陽子は春隆に会釈をかえした。

乗竹春隆は「乗竹」をもじった「首ったけ」侯爵という綽名をつけられていて、十番館の定連だった。

十番館には、戦争犯罪容疑者として収容される前夜、青酸加里で自殺した遠衛公爵の三男坊が憂さばらしか、それとも元来享楽的なのか、時どき踊りに来るほか、数名の華族のいわゆる若様が顔を見せて、ある際物雑誌にその行状記を素ッ破抜かれた。

春隆もその槍玉に挙げられた一人だが、もともと鈍感なのか、大して参りもせず、むろんその雑誌の買い占めに走りまわったりせず、そんな金があればと、せっせとチケットを買って、十番館へ通っていた。

一つには、そんなことぐらいで謹慎するには、この「首ったけ」侯爵は余りにも陽子に首ったけであった。

彼は十番館以外のホールへは行かず、また、十番館では、陽子以外のダンサーとは踊らず、陽子が他の男と踊っている時は、大人しく一つ椅子に腰を掛けて、いつまでも同じ姿勢のまま、陽子の体があくまで待っているの