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だいぼさつとうげ
大菩薩峠5
中里 介山
Read 大菩薩峠5 (だいぼさつとうげ) by 中里 介山 (なかざとかいざん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 262,120 characters · 516 screens
神尾とても看板書きになったわけではなく、頼まれたればこそ、こうして筆を揮うのでありましょう。そこへ廊下を歩いて来る人の音、
「殿様、殿様、ドチラにいらっしゃるんでございます」
それは聞いたことのある女の声。
「おや、福兄さんもおいでなんですか」
入って来たのは、女軽業の親方のお角でありました。
「いよう、これはこれは両国橋の太夫さん」
福兄と言われた大奴は、細い目をしてお角を迎えました。
「殿様、御機嫌よろしう」
お角は神尾の前へ手を突いて、頭を下げました。
「頼まれ物が出来上ったぞ」
神尾も御機嫌がよく、お角の面と、いま書き上げた看板とを見比べていますと、
「まあ、お書き下さいましたか、これはこれは、なんというお見事なお筆でございましょう、生きているようでございますね」
お角も看板の文字を見て、心から嬉しそうであります。
「生きているとも」
神尾もまた自分ながら、書き上げた看板の文字に得意でいます。
「太夫元、奢らなくちゃあいけやせんぜ」
福兄はこう言って、お角を嗾しかけました。
「奢りますとも、何なりとお望みに任せて」
「よろしい、所望がある」
福兄が改まってむきになると、