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みやもとむさし
宮本武蔵
吉川 英治
Read 宮本武蔵 (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 185,809 characters · 369 screens
加茂の競べ馬に出したら、あれこそ第一でがなあろうに」
「ムム、月毛じゃの」
「何やら立て札があるわ」
「この飼料のおん豆を煎じて飲ますれば、夜泣き、歯ぎしりが止むとある。権叔父、おぬし飲むがええ」
「ばかをいわしゃれ」
笑いながら見廻して、
「おや、又八は」
「ほんに、又八はどこへ行ったぞいな」
「ヤア、ヤア、あれなる神楽の殿の下に足をやすめているわ」
「又よう。又ようっ――」
婆は手をあげて、
「そっちゃへ行くと、元の大鳥居の方へ出るのであろうが。――高燈籠のほうへ行くのじゃがな」
と呼ぶ。
又八は、のそりのそり歩いて来た。この婆とこの爺を連れにして、毎日こう歩いてばかりいるのは、彼としてかなりの我慢らしく見える。それが五日や十日の見物というならまだしも、宮本武蔵という敵と巡り会って討ち果すまでの長い旅かと思うと、なんとしても、憂鬱にならざるを得ない。
三人つながって歩いていても無益であるから、各※(二の字点、1-2-22)わかれて、自分は自分で武蔵の所在をさがすから――と提議してみたが、
(もうやがてすぐ正月、久しゅう母子一緒に屠蘇を酌まぬし、いつ何時、これがこの世の名残りとなろうも知れぬお互いの身、せめて、ことしの正月だけは、ともに過ごそうではないか)