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みやもとむさし
宮本武蔵
吉川 英治
Read 宮本武蔵 (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 185,809 characters · 369 screens
五
「お国は」
「周防岩国の産です。――で私は、帰国した後も、毎日、練磨を怠らずに、錦帯橋の畔へ出て、燕を斬り、柳を斬り、独りで工夫をやっていました。――母が亡くなります際に、伝来の家の刀ぞ、大事に持てといわれてくれましたこの長光の刀をもって」
「ほ、長光か」
「銘はありませんが、そういい伝えています。国許では、知られている刀で、物干竿という名があるくらいです」
無口だと思いのほか、自分のすきな話題になると、美少年は問わないことまで語りだした。そして口を開き出すとなると、相手の気色などは見ていない。
そういう点や、またさっき自分で話した経歴などから見ても、すがたに似あわない我のつよい性格らしく思われた。
五
ちょっと、言葉をきって、美少年はその眸に、雲のかげを映し、何か感慨に耽っていたが、
「――けれどその鐘巻先生も、昨年、大寿を全うして、ご病死なされてしまった」
呟くようにいい、
「私は、周防にあって、同門の草薙天鬼から、その報らせをうけた時、師恩に感泣しました――師の病床についていた草薙天鬼、それは私よりもずっと先輩だし、また、師の自斎とは叔父甥の血縁でもあるのですが、その者には、印可を与えずに、遠く離れている私を思ってくれて、生前に、印可目録を書き遺して、一目会って、手ずから私に与えたいと申されたそうであります」