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ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)
山の憶い出 上
木暮 理太郎
Read 山の憶い出 上 (ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)) by 木暮 理太郎 (こぐれりたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 284,014 characters · 565 screens
川俣温泉はもうすぐそこのような気がするけれども、まだ二里は下らなければならない。荷を纏めて足早に河原を下り始めた。川上から根なし雲が追いかけるようにおろして来る。夫に連れて小雨が如露で水を撒くように注いで来るが長くは続かない。水みちが広い河原を崖から崖へと蛇行しているので、幾回か浅い徒渉を繰り返した。左手に狭い谷が現われて、板を張り詰めたように平な赤土色の岩盤の上を、水は小躍りしながらトットと落ちて来る。奥を覗いて見たがすぐ右折しているので見えなかった。これが小在池沢である。何だか物凄いところのある谷だと思った。
広い河原は益広くなって、水の流れた跡が箒目のように残っている細かい砂の上には、無数の羚羊の足痕が印してある。夏の緑をかなぐりすてた雑木の梢は、瑞々しい黄や紅の闊葉に掩われて、打ち開いた左右の山側を凹凸はあるがベットリ塗りつぶしている。ふり仰ぐ尾根上のあたりはまだ古綿のようなちぎれ雲が木の間に搦み付いてはいるものの、端からこぼれかかる目覚しい絢爛の粧を隠しおおせるものではなかった。松本君と私とは暫く立ち止っては周囲の色彩に眺め入った。実に此附近の闊葉樹林こそは、最も美事に鬼怒川上流の秋を表現するものであろう。