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ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)
山の憶い出 上
木暮 理太郎
Read 山の憶い出 上 (ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)) by 木暮 理太郎 (こぐれりたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 284,014 characters · 565 screens
その為手近に枯木はあっても、遠くまで流木を拾いに出懸けなければならない。日は蒼茫と暮れて、烟の靡く南の方の少し開けた間から、夕栄えした樺色の雲が高く望まれた。明日は上天気だ。用もないから早く寝ることにする。
六月二日。午前四時から起きて支度し、去年に懲りて昼食の分も炊いて、六時三十分に小屋を出た。暖いように思っても日の指さぬ朝の谷間は河風が寒い。空は瑠璃色に冴えて、仰ぐ梢からは露が零ちて来る。崖(麹岩の名がある)からのり出した日蔭つつじの黄花が、薄暗い木蔭にほんのりと暖い色を浮べる。深山酸漿草の美しく咲きこぼれた草原を通り抜けてまた河原を辿って行く。
飛鳥川ならぬ東沢は一年の間にさして変った様子も見えなかった。この狭い一枚岩の河床から成る峡谷では、変りたくも容易に変れるものではない。唯だ削り出された石の屑が所定めず漂積するに過ぎない。行く行く豪壮の景を賞しながら、七時半釜沢の出合に達した。一時間半は懸ると思ったのが三十分早く着いた。此処は大井川の支流信濃俣のガッチ河内と中俣との合流点から、中俣を見た景色に似ている。岩壁が高く、谷が狭く急に折れて、奥はどれほど深いか、どんな恐ろしい所が蔵されているか、入口を覗いただけでは分らないが、それでいて物凄い何物かを暗示している所までそっくりだ。