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あくまのもんしょう
悪魔の紋章
江戸川 乱歩
Read 悪魔の紋章 (あくまのもんしょう) by 江戸川 乱歩 (えどがわらんぽ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 151,280 characters · 301 screens
男の癖に頭は少女のようなおかっぱだ。どうもこんな山里にいそうな子供ではない。それに風俗が異様に古めかしくて、現代の子供とも思われぬ。
川手氏は夢でも見ているような気持であった。変だぞ。俺はこの通りの子供を知っている。遠い遠い記憶の中に、丁度こんな服装をした子供の姿が焼きついている。誰だろう。ひょっとしたら幼年時代の遊び友達の面影ではないかしら。
何か物懐かしい気持に支配されて、思わず廊下に立出でると、泣いている幼児の傍に近づいて行った。
「オイオイ、泣くんじゃない。いい子だ。いい子だ。お前今時分、一体どこから来たんだね」
おかっぱの頭を撫でてやると、子供は涙の一杯湛った目で川手氏を見上げ、廊下の奥の闇の中を指さした。
「お父ちゃんとお母ちゃんが……」
「エ、お父ちゃんとお母ちゃんが、どうかしたの?」
「あっちで、怖い小父ちゃんに叩かれているの……」
子供はまたシクシクと泣き出しながら、川手氏の手を取って、助けでも求めるように、その方へ引っぱって行こうとする。
川手氏は夢に夢見る心地であった。真夜中、この山中の一つ家に、こんな可愛らしい子供が現われるさえあるに、その父と母とがこの邸の中で何者かに打擲されているなんて、常識を以てしては全く信じ難い事柄であった。