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あくまのもんしょう
悪魔の紋章
江戸川 乱歩
Read 悪魔の紋章 (あくまのもんしょう) by 江戸川 乱歩 (えどがわらんぽ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 151,280 characters · 301 screens
遠くを走る電車の響きの外は、何の物音も聞えない。その死に絶えたような静寂の中で、黒い怪物は、屋根の上を、四ん這いになって、ソロソロと庇の端の方へ乗り出して来る。不気味な無声映画でも見ているような感じであった。
するとその時、怪物の頭の上の大屋根に、瓦の軋む音がして黒い人の姿が現われた。林助手が抜け穴から這い出して、その辺を探し廻っている姿である。
怪物はハッとしたように、大屋根を見上げた。そして、瓦の音に追手の迫るのを察したのであろう。何か非常な決心をした様子で、いきなり庇の端に乗り出すと、パッと闇の地上へと身を躍らせた。大きな黒い塊が、博士の目の前の道路へ、スーッと墜落して、コロコロと転がったが、忽ち起き上って、非常な早さで走り出した。
宗像博士がそのあとを追ったのは云うまでもない。追い縋って捉えようと思えば、捉えられぬ筈はないのだが、博士はなぜかそれをせず、あくまで相手の跡を追って、どこへ逃げるのか、その行先をつきとめようとするらしく、適当の距離を保ちながら、執拗な追跡をつづけた。
怪物はこの辺の地理をよく知っていると見え、淋しい方へ淋しい方へと町角を曲りながら、十丁近くも走ったが、息切れがするらしく、段々速度が鈍くなった頃には、行手に何かの神社のこんもりとした森が見えて来た。