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あくまのもんしょう
悪魔の紋章
江戸川 乱歩
Read 悪魔の紋章 (あくまのもんしょう) by 江戸川 乱歩 (えどがわらんぽ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 151,280 characters · 301 screens
「しかし、逃げ出すと云って、どこへですか。一歩この邸を出れば、人通りがあります。まさか明るい町を、女を抱いて走ることは出来ますまい。それに、刑事さん達も、まだ門の外に見張りをつづけていたんだし――」
川手氏が腑に落ちぬ体で反問した。
「そうです。僕もそれを考えて安心していたのですが、賊の方では、この二重の包囲を脱出する、何か思いもよらぬ計略があったのかも知れません。イヤ、ひょっとすると、あいつは、まだ邸内のどこかに潜伏しているんじゃないか。夜を待つ為めにですね。しかし……」
博士も確信はないらしく見えた。
「だが、妙子はどうして救いを求めなかったのだ」
川手氏はハッとそこへ気づいたらしく、真青になって、脅え切った目で宗像博士を見つめた。
「妙子はわしと同じように猿轡をはめられていたのでしょうか。それとも……」
「何とも申せません。しかし、少くとも無残な兇行が演じられなかったことは確かですよ。どこにも、血痕などは見当らないのですから。しかし、お嬢さんの生死は保証出来ません。ただ御無事を祈るばかりです」
博士は正直に云った。
川手氏の物狂わしい脳裏を、妙子さんが賊の為めに絞殺されている光景や、毒薬の注射をされている有様などが、浮かんでは消えて行った。