Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 187,841 characters · 376 screens
「下流は」
「とんと気配がわかりませぬ」
「天運、いずれに幸いするか。きょう半日がわかれ目だな」
「半日。そうかかりましょうか」
「侮れぬぞ」
家康の影は、河原の畔の林へかくれた。そこが織田軍の先鋒一番隊の――彼の手勢がヒソと鳴りをしずめていた陣だった。
そこへ入ると、もう蕭殺の気が肌に沁む。草むらに、灌木の中に、兵は銃列を布いて、身を屈している。槍隊は槍をにぎって、まだ何も見えない姉川の一水をにらんでいる。
――今日が生死の?
兵の眼は、ぎらぎらしていた。死も生も意識のない裡に、きょうの血戦がどう終るか、無言の中にみな描いている。――この空を、今夜もきっと見られると信じている顔はひとつもない。
康政をつれて、家康は、その中をガサ、ガサ、と静かに通った。鉄砲の火縄のほかに、火の気も見ない。
誰か、大きな嚔をした者がある。風邪をひいた兵が、火縄の臭気に鼻をつかれて思わず放ったのであろうが、そんな味方の中の声一つでも、
――はッ?
と、したように光る眼が辺りへうごく。
睨みつめていても何時の間にというけじめも分らぬまに、ほのかに姉川の水面が白みかけたと思うと、林の梢を透いて、一条の紅い雲が、伊吹山の肩のあたりに見出された。