Japanese reading practice

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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

Read 樅ノ木は残った (もみノきはのこった) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 148,519 characters · 296 screens

Aozora Bunko

兄の耳を恐れるように、忍び足で、殆んどもの音を立てずに支度をした。

「おそくなってごめんなさい」とおみやは囁いた。「おなかがすいたでしょ」

新八は首を振った。おみやはもっと低い声で囁いた。

「酔っているときはむずかしいの、きげんの好いときもあるし、たいていきげんがいいんだけれど、そうでないときは雷さまみたようなの、気を悪くしないでね」

「失礼したほうがいいんじゃありませんか」

「朝になったら話すわ」とおみやが云った、「酔がさめれば人が違ったようになるのよ、話しをすればわかるし、きっと力になってくれると思うわ、さあ、めしあがれ」

新八は食欲がなかった。朝食を早く喰べたままだから、空腹なことはたしかだが、空腹が過ぎたのと、六郎兵衛のいやな態度で、すっかり食欲がなくなっていた。

その夜、二人は同じ部屋で寝た。もちろん夜具は端と端へはなれていたが、新八は寝ぐるしかった。

「堪忍してちょうだい」おみやが夜具の中からそう囁いた、「兄は癇性で、人が同じ部屋にいると眠れないんですって、迷惑でしょうけれどがまんして下さいね」

新八は眼をつむったまま、黙って頷いた。女と同じ部屋で寝ることなどは初めてだし、なにやら気が咎めるようで、おみやのほうを見ることができなかった。