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ろうごくのはなよめ
牢獄の花嫁
吉川 英治
Read 牢獄の花嫁 (ろうごくのはなよめ) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 162,213 characters · 325 screens
「や、あいつ、御霊廟のうしろから出て来たぞ」
「あの裏は、往来でない筈だが」
「鎧櫃を背負っているじゃないか」
「ウム……おやっ? ……こいつあ、臭い」
二人の六感は、何ということもなく一致した。近づくのを待って、ばらッと、露を蹴って躍り出すが早いか、左右から打つかるように駈け寄って、
「待てッ」
「何処へ参る!」
と、右の腕、左の腕、両方からグイと捻じ上げた。
「? ……」
男は、呆っ気にとられた顔をして、目や、鼻や、口を、異様に動かしたが、うんともすんとも言わなかった。
そして肩越しに、団栗のような大きな白眼を、ギョロリと後ろへ送っているので、波越八弥が、はッとその視線を辿ると、先へ行った黒ずくめの服装をした侍が、足をとめてぎょッとしたようにこっちを振り顧っていた。
「おッ――あいつの連れだ!」
八弥が、そう気がついて、駈け出そうとした途端に、侍の影は、唐門道の真っ白な月下を、夜烏のように、躍りながら、右の手をひるがえして、何か投げた。
「わっ」
くらくらとして、八弥は、思わず自分のこめかみを抑えたまま、よろめいた。――風を切って来た小石は、彼の頭から刎ね返って、地上へ小さい音を転がせた。