Japanese reading practice

Read classic Japanese books with furigana

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ろうごくのはなよめ

牢獄の花嫁

吉川 英治

Read 牢獄の花嫁 (ろうごくのはなよめ) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 162,213 characters · 325 screens

Aozora Bunko

渡り鳥

「外へ出すな」

と、東儀は呶鳴った。

羅門は、死骸を見すてて、塀際の方へ駈けた。東儀もむろん追い捲くした。――だが咄嗟に、女性の嫋かさをかなぐり捨てた花世は、翼をひろげた雉子のように迅かった。裾をひるがえして、泉水を跳んだ、追いすがる捕手たちを、片手なぐりに斬ッて払いながら、築山を越え、樹の枝にすがり、そして塀の外へ跳び降りてしまった。

呼子笛のつんざき!

疾風のような跫音!

辻に、橋の袂に、河べりの樹蔭に、彼女の走るところに人影がみだれた。彼女の手にある脇差は、いつのまにか柄だけになっていた。目釘が折れて刀身はどこかに落してしまったのであろう。しかし、彼女はそれにも気がつかずに、柄だけの刀を握って、ひた走りに逃げて行った。

闇、闇、また闇。――行く手は暗い、彼女の運命のように暗い。

はやくも襲われた呪いの暴風に、愛人との隠れ巣、父との愛の家、そしてその一人の父の非業な最期すら見捨てて、どこへ、どこまで、おわれて行く彼女であろうか。

渡り鳥

まだ東風が肌寒い。翌年の二月初旬である。

今し方まで、宿端れの撞木橋の上で、金毘羅詣りの男と、気のはやい三度飛脚が、つまらぬ間違いから喧嘩を起して、往来の旅人が、足をとめて、真っ黒にたかッていた。