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ろうごくのはなよめ
牢獄の花嫁
吉川 英治
Read 牢獄の花嫁 (ろうごくのはなよめ) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 162,213 characters · 325 screens
――なに、花世さんもご一緒か、これはいよいようれしい」
「これ花世、何が恥しい、こちらへ参って、ご挨拶を申さぬか。――どうも、いつまでも、子供で困る」
「なに、子供どころか、貴公よりは、背丈が高い。それに、しばらく見うけぬうちに、たいそう美人になったのう、あはははは。……何せい、よく訪ねてくれた。――ま、早速だが、見てくれい、わしの建てたこの家を」
人恋しいのであろう、意外な訪問者を迎えて、老人のよろこびかたは非常なものであった。
「……ほう、部屋数が二十七もあっては、たいへんだな。どうじゃ花世、広いものではないか、ウム……眺望もすばらしい」
富武五百之進とは、誰も知る、番町の旗本、四十四、五の年配で、見るからに、几帳面そうな人物。
いわゆる、御番衆というと、いったいに、風儀の悪い方だが、江戸城でも、書院詰のものだけは、悪風に染まず、品行が正しいといわれている。
わけても、五百之進などは、その代表的な人物で、学才もあり、思想も健全で、私行上にも役目にも、かつて曲がったことがない。剛直、竹の節のような性格だった。
――に、ひきかえて、娘の花世は、女性的な上にも女性的な、嫋やかな、可憐な、松の根に咲いた山桔梗にもたとえたいほどに――潔く、ういういしい。