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りょうきのはて
猟奇の果
江戸川 乱歩
Read 猟奇の果 (りょうきのはて) by 江戸川 乱歩 (えどがわらんぽ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 134,971 characters · 270 screens
「どうしたんだ。今時分こんな所で」
と話しかけても、相手はやっぱりこわばった顔をくずさないで、変なことを云うのだ。
「君は誰ですか。人違いじゃありませんか」
「僕? 僕は君の友達の青木だよ。しっかりしたまえ」
「一体あなたは僕を誰だと思っていらっしゃるのですか」
「知れたこと、品川四郎だと思っているよ」
と云いさして、青木はふと黙ってしまった。久しく忘れていた、恐ろしい事実を思い出したからである。
「品川四郎? 聞いたこともありませんね。僕はそんなものじゃないですよ。………急ぎますから」
袖を払う様にして立ち去る相手の後姿を見守って、青木は呆然と立ちつくしていた。
彼奴だ、二月前自動車の中から魔法使いの様に消え失せてしまった、あのもう一人の品川四郎だ。何という意外な場所で再会したものであろう。
青木は殆ど無意識にその男の跡を追った。坂を降り切って、噴水のあたりまでも。
だが、考えて見るとこの男は東京へ帰るのだ。停車場へ行くに極まっている。流石の猟奇者も、このままの姿で東京まで尾行する勇気はなかった。それに懐中も乏しいのだ。時計を出して見ると、彼の乗るに相違ない東京行急行の発車までには、やっと駈けつける時間を余すばかりだ。