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ねこののみとりぶし
猫の蚤とり武士
国枝 史郎
Read 猫の蚤とり武士 (ねこののみとりぶし) by 国枝 史郎 (くにえだしろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 185,496 characters · 368 screens
海上の巨船には数十人の武士が、疲労と恐怖と困惑とで、人心地もなく立ち騒いでいた。
素晴らしく立派な船であって、しかも普通の客船でもなく、また普通の荷船でもなく、軍船型と遊覧船型とを、折衷加味した特殊の船で、矢狭間がしつらえてあるかと思うと、管絃の宴を催すによい、朱塗りの舞台などが出来ていた。
胴の間はキラビヤカな座敷であって、絨毯、毛皮で敷きつめられてあり、望遠鏡、地球儀、羅針盤などという、舶来の珍奇な品物が装飾的に置いてあったりした。
その座敷の正面に坐り、烈しい船の動揺につれて、体を左右に揺すりながらも、狼狽もせず恐怖もせず、さも悠々と構えている、霜髪、豊頬、鳳眼、隆鼻の、老貴公子のような人物がいた。
その左右に転がりつ起きつ、よろめきつしている家来たちを、気の毒そうに見やったが、
「この航海を思い立ったのは、いわばわしの気まぐれだったのじゃ。そこで天がそれを咎めて、こんな気まぐれのシケを下し、わしを咎めたに相違ない。余波を受けたその方たちが気の毒じゃ」
こう云って暗い顔をした。
家来たちはしかし恐縮しきって、苦しい中にも辞儀ばかりしていた。