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しほんたいへいき
私本太平記(七)
吉川 英治
Read 私本太平記(七) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 330,262 characters · 662 screens
「なに、御勢が見えたと」
「宰相の御着とある」
「それ、お迎えに出ろ」
こんな騒ぎの中へ、尊氏の軍は巳ノ刻(午前十時)ごろこれへ着いた。
出迎えに立った城将たち環視のなかで、尊氏は、そのうちの一人へすぐ眸をとめた。と思うと、われから進み寄って、その者の手をかたくにぎっていった。
「尊氏です。あなたが具簡か」
「近江守具簡でおざる」
「都では、大事な御子息を亡わせた。――あの大友貞載――よい武士であったものを、尊氏へ大功を尽くさせたばかりにあえなき死をとげさせた。おわびする」
「な、なんの」
大友具簡は、初対面の彼から、いきなりこれをいわれたので、つい老いの目をキラと赤くうるませてしまった。
「兵家にはありふれたことでおざる。わが家のみの悲事でもおざらぬ。ご斟酌はかえっていたみ入る」
「が、尊氏もきっといつかは貞載のうらみをなぐさめいではおかぬ。聞けばこの立花城はその貞載が住居であったとか。浅からぬ宿縁とおぼえ申す」
「されば、はしなくここに宰相の将軍をお迎えしたてまつるもまことに不思議。ここを根じろに、一定、弔合戦の覚悟にござりまする」
「いや」
と、尊氏がこのとき、ここに拠ってたてこもる意志などはちっともないような語気を出したので、城将はみな彼へ疑惑の眼をそそぎかけた。