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しほんたいへいき
私本太平記(七)
吉川 英治
Read 私本太平記(七) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 330,262 characters · 662 screens
――嫡男どもか。みんな前へ出ろ。わしが尊氏だ」
と、手ずから各※(二の字点、1-2-22)へ杯をやり、また一族の輩にも、何かと、賞で物を分け与えた。その間に、円心は、
「お。ひとつ、ご酒興にこれをごらんくだされい」
と、たずさえて来た一ト束ねの物を解かせ、おびただしい幟や小旗を展げだした。
「円心。何じゃこれは」
「されば、これはみなわが白旗城を包囲していた敵が、攻め口を解いて逃げ落ちるさい、道の諸所にあわてて捨て去った差物にござります」
「ほ。百旒を越す数だな」
「それよりは、篤、一つ一つの紋をごらんなされませ。この家々の紋には御記憶があるはずです。かつては、御麾下に従い、将軍の御馬前に働いていた輩の紋ではござりませぬか」
「む。……覚えがある。それもこれも、以前はわしに仕えていた奴よの」
「見さげはてた二タ股者です。先に、わが君が九州落ちの御悲運と相成ったさい、たちまち節操をすてて、新田方へ降参した犬武士どもの旗差物にござりまするわ。……いやお目の穢れとは存じましたが、陣中の御一興に持参してみたまでの儀にござりまする」
「なにさま……」と、尊氏は雨露や泥にまみれた無数の旗を見まわして「――浮きつ沈みつの、流転そのまま、波間の泡ツブでも見るようだわえ」