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しほんたいへいき
私本太平記(七)
吉川 英治
Read 私本太平記(七) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 330,262 characters · 662 screens
ましてまだ年もゆかぬ小娘の身でよ。よほどな仔細がなくてはなるまい」
「では、これに落ちている刃は」
「その小娘の物だ。それをもって、わしの寝首を掻こうと神かけていたものだろう。可恐いな。尊氏、大軍は何の怖れともせぬが、こういう目に見えぬところの刃には心も恟む。何でわしにさまでな恨みがあるのか、介よ、やさしく訊いてみい。おそらくは娘も逆上していようほどに、あとでもよい、よくいたわって、訊いておけ」
「かしこまりました」
介が、そう答えると、すぐその尾について、小娘が言ったのだった。
「仰せられますな尊氏さま。いたわってなど、いただきたくはありません」
「ほ。いうたな」
「逆上もしておりませぬ。さむらいの娘です。仕損じた上の覚悟もしておりまする。あなたはよくよく悪運のつよいお方。わたくしは不運なお人たちの味方。それだけのこと。すぐご処分をしてくださいませ」
「よし」
尊氏は、うなずいた。
「望みのようにしてやる。だが、一応の理由を問わねば処分をくだし難い。まず訊こう。名は」
「棗といいまする」
「棗か。して生国は」
「信濃の諏訪です」
「諏訪の祝の一族だの」
「はい。兄の三郎盛高は、鎌倉の亡ぶ日まで、御先代(高時)の近侍の内の一人でした。