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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控

野村 胡堂

Read 銭形平次捕物控 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 157,440 characters · 313 screens

Aozora Bunko

「たった今、両国か、谷中――と親分はいったでしょう」

「それは計略だよ。お前が路地でワメキ散らすのを、曲者は何処かに隠れてやり過しているかも知れない。うっかり本当のことがいえるものか」

「すると、親分」

「待ちなよ、八」

平次は立ち上がって、椽側から狭い庭のやみを透しました。

外は夕立模様、何時の間にやら墨を流したような空から、ポツリポツリと雨が落ちて来て、はためく遠稲妻に誘われたように、腥臭い風がサッと吹いて来ます。

「八、来い」

もとの座に還った平次は、もう一度猫板の上の手紙に眼を落しました。

「この手紙は、お栄の書いた手紙じゃありませんね。お栄の筆跡はヘナヘナでみみずがはったようだが、こいつは変に肩上がりで、ギスギスしているじゃありませんか」

八五郎もひとかどの事をいうのです。

「いや、手を変えて書いたから変な肩上がりになったんだ。矢張り女の筆跡だよ」

「――」

「男なら、お静さんとは書かないだろう」

「な、成る程ね」

「それから、お前は気が付かなかったかも知れないが此処へ持って来た時、俺は手紙をわざと火鉢の上へ落したろう」

「ヘエ」

「慌てて拾い上げて、猫板の上で伸ばしたら、手紙の文句の墨の上へ、この通り灰が付いている」