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かんかんむしはうたう

かんかん虫は唄う

吉川 英治

Read かんかん虫は唄う (かんかんむしはうたう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 91,006 characters · 182 screens

Aozora Bunko

一婦人

その頃、紀尾井町の隣家にいた縁故で、千坂家の末娘を、ある県判事の家内に、世話をしたことがある、桐代というてな、たいへん美人であった」

おむらは、まじめに聞いていた。

一婦人

「――千坂男爵は、上杉家の支藩で、血統も正しい、両親も厳格であるし、兄弟たちも、それぞれ立派に社会に出ている。その末娘じゃから無論教養も十分、性格もまちがいないものと信じて、世話をしたのが誤りだった。媒人が若い」

「先様と合わなかったのでございますか」

「なに、その娘の性格が、先天的に淫らにできていたんじゃ。嫁ぐとすぐ、良人の赴任先で、書生と密通するというように」

「まあ」

「すぐ破談になった。それで、わしとの手は一時切れていたが、それからも嫁ぐ先で、幾たびも姦通騒ぎを起した。千坂も弱り果てて、しまいには、邸にひきとって、監視をつけておいた、その監視に媚色を送って、座敷牢をやぶって逃げてしまうという女じゃ、女にしては、めずらしい」

「上流のおひい様にも、そんなお方があるんでしょうか」

「あるな、その程度ならいくらもある。――だが千坂の娘は、そんなことでは納まりがつかん。それからも、男へ渡りあるいて、しまいには衣食にも窮してしまった。