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かんかんむしはうたう
かんかん虫は唄う
吉川 英治
Read かんかん虫は唄う (かんかんむしはうたう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 91,006 characters · 182 screens
「君は、木綿問屋ではありません、ほかに本職があるでしょう。言いにくければ、私が、代弁してあげてもいい」
「…………」
「言わないのね、じゃ、私が高橋八寿雄に代って告白しましょう。――諸君、わたくし、高橋はですね、実は掏摸でございます。うそだと思うなら、襦袢の袖をめくッて、二の腕の文身を見てください」
彼女の皮肉な揶揄が耳を刺すと共に、黒眼鏡は、脱兎のように逃げかけた。
「野郎」
「ふざけるな」
追いかぶさった腕が、何本も、彼の帽子、彼の襟くび、彼の袖、彼の帯をつかまえて、仰向けにひっくり返した。ゴロタ下駄やドロ靴が、たちまち眼鏡をとばし、肩を蹴とばした。
「野郎、逃げられるものなら逃げてみろ」
「…………」
男は、半殺しの目にあって、腰も上げ得ないほど参ってしまった。そして、眼鏡のとれたすごい顔を、お光さんに向けて、
「さ、殺せ。殺すなら殺してみろ。そのかわりにてめえたちも、ただはおかねえぞ、おれは東京の仕立屋銀次の身内で常ッていうんだ」
「じゃ話はすぐに分るわ、とんだ失礼をしたけれど、君が、ここまで来ても口を開かないから悪いのよ。ほんとなら警察へ突き出されたってそれまででしょう。