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さんごくし
三国志(五)
吉川 英治
Read 三国志(五) (さんごくし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N1. Tap a word for the meaning.
N1 · advanced · modern kanji and kana · 325,249 characters · 653 screens
どうかそういわないで胸襟をおひらき下さい。――先頃、この魯粛を伴うて、暗夜、ひそかに江をさかのぼり、北岸の敵陣をうかがいみるに、水陸の聯鎖も完く、兵船の配列、水寨の構築など、実に法度によく叶っている。あれでは容易に近づき難い――と、以来、破陣の工夫に他念なき次第ですが、まだ確信を得ることができないのです」
「……しばらく、語るをやめ給え」と、制して孔明もややしばし黙考していたが、やがて、
「ここに、ただひとつ、行えば成るかと思う計がある。……が、都督の胸中も、まったく無為無策ではありますまい」
「それは、自分にも、最後の一計がないわけでもないが……」
「二人しておのおの掌のうちに書いて、あなたの考えと私の考えが、違っているか、同じであるか開き合ってみようではありませんか」
「それは一興ですな」
直ちに硯をとりよせると、互いに筆を頒ち、掌に何やら書いて、
「では」
と、拳と拳を出し合った。
「いざご一緒に」
孔明はそういいながら掌をひらいた。周瑜も共に掌をひらいた。
見ると――
孔明の掌にも、火の一字が書いてあったし、周瑜の掌にも、火の字が書かれてあった。
「おお、割符を合わせたようだ」