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さんごくし
三国志(五)
吉川 英治
Read 三国志(五) (さんごくし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N1. Tap a word for the meaning.
N1 · advanced · modern kanji and kana · 325,249 characters · 653 screens
南風北春
一
南風北春
一
「逃がしては!」と、徐盛は、水夫や帆綱の番を励まして、
「追いつけ。孔明の舟をやるな」と、舷を叩いて励ました。
先へ舟を早めていた孔明は、ふたたび後から追いついて来る呉の船を見た。孔明は、笑っていたが、彼と船中に対坐していた一人の大将が、やおら起って、
「執念ぶかい奴かな。いで、一睨みに」
と、身を現して、舷端に突っ立ち、徐盛の舟へ向って呼ばわった。
「眼あらば見よ、耳あらば聞け。われは常山の子龍趙雲である。劉皇叔のおいいつけをうけて、今日、江辺に舟をつないで待ち、わが軍の軍師をお迎えして夏口に帰るに、汝ら、呉の武将が、何の理由あって阻むか。みだりに追い来って、わが軍師に、何を働かんといたすか」
すると、徐盛も舳に立ち上がって、
「いやいや、何も諸葛亮を害さんためではない。周都督のお旨をうけ、いささか亮先生に告ぐる儀あり。しばらく待ち給えというに、なぜ待たぬか」
「笑止笑止。その物々しい武者どもを乗せて、害意なしなどとは子どもだましの虚言である。汝らこれが見えぬか」と、趙子龍は、手にたずさえている強弓に矢をつがえて示しながら、
「この一矢を以て、汝を射殺すはいとやすいが、わが夏口の勢と呉とは、決して、対曹操のごときものではない。